今年度は、戦後わが国保険企業の内部統治(保険企業に対するガバナンス・システム)の研究と並行して、外部統治(保険企業によるガバナンス・システム)解明のための準備的研究を重ねてきたが、ガバナンスに関連するデータについて、これまでわれわれが行ってきた産業分析データよりも、データの入手がより困難であることが判明した。しかし散在する諸資料・諸統計を結合することによって、ある程度の数量分析にたえうるデータの作成ができるものと考えている。この困難を補完するものとして、当初は考えていなかった手法ではあるが、戦後活躍した業界人の方々へのヒアリングを実施している。数量的分析手法とは対照的なものではあるが、数量分析では明らかにされ得ないことが判明するなど、きわめて有効なものであると考えている。 戦後の保険企業の外部統治に関して、これまでの研究からの中間的な仮説として、以下の5点を指摘しておきたい。 (1)企業融資に関しては昭和30年代から昭和40年代までは、「限界資金供給者」としての保険企業という評価は、大きく間違っていない。つまりガバナンスの主たるプレーヤーではなかった。 (2)産業企業の資金需要が旺盛な時期においては、「限界資金供給者」であっても、旧財閥系企業および大手企業が窓口になって、融資の割り当てを行うほどであった。しかしだからといって、産業企業のCorporate managementに保険会社が深く関与した証拠は見当たらない。 (3)しかしその後においては、保険会社の企業規模などによって、ガバナンスのプレーヤーとしての行動にある程度の差が生じる。 (4)商品構成において、団体保険・企業保険のウェートが高まるにつれ、運用と販売の連携が重視され、いわゆる「政策投資」が大きくなる。 (5)この「政策融資・投資」は、ほとんどの保険会社では、資産運用担当者の「審査」を書いた状態で行われるものではなかった。つまり「お手盛り融資」ではなかった。 以上、おおむね通説と異ならないとはいえ、通説および従来の研究にも検討すべき余地があることがわかってきた。たとえば、企業保険が普及するにつれて個別企業に差異が生じたことをより解明すべきであるし、また「政策投資」の歴史的実証分析もより深化させる必要がある。今年度は、これまでの研究を継続しつつ、これらの諸点について、より深く検討を加えてゆく。
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