今年度は、日本の銀行の行動原理に関する実証的研究を行っている。 銀行の行動原理としてはさまざまなものが考えられるが、本研究では、銀行の経営陣の選好を明示的に考慮に入れた仮説に注目している。より具体的には、日本の銀行経営者は、(銀行の長期的利潤のみならず)自らの評判・信認を重視して銀行経営を行っているという仮説を実証的に検討することが今年度の主たる研究課題である。 上記仮説を実証的に検討するために、本研究では、自らの取引先企業が財務危機に陥った場合の銀行の対応に注目している。銀行が企業救済を行う理由としては、2つの仮説が存在する。1つは、中心的な情報生産者たるメインバンクとしての信認維持であり、もう1つは企業との長期的関係構築のために要したコスト(通常はサンク・コストと考えられている)を回収するためであるというものである。 上記のいずれの仮説が適切なのかを実証的に検証するため、銀行-企業間関係(メインバンク関係)の長さと企業救済の可能性との間の相関を分析している。両者に正の相関が存在する場合には後者の仮説(サンク・コスト仮説)が適切であり、負の相関が存在する場合には前者の仮説(信認仮説)が妥当していることが示唆される。ここで、財務危機に陥った企業の定義およびメインバンクの定義をどのように考えるかによっていくつかの可能性があり、その各々について上記の仮説の検証を行っている。 いずれの仮説が支持されるのかは、日本の銀行行動を理論的に考察する際の出発点を与えるものであり、非常に重要な含意を有していると考えられる。
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