平成12年度においては、当初計画に従って、いくつかの作業を行った。まず第1に、21世紀における新たな金融制度を構想する上で、日本の問題点をアメリカの経験との比較で明らかにするために、日米の専門家による討論会、及びその後共同研究を行い、その成果を日本の金融危機に関する広範な見解を集約し英文の書籍として出版した。日本語版も平成13年度の初めには出版予定である。ここで明らかにされた方向にそった、より具体的な金融制度改革の具体案の検討が今後の課題の一つである。 第2に、最近急速に進展している銀行の役割に関する理論的発展に関して、その最先端の研究をリードしているアメリカの研究者とも意見を交換し、かつそれらの理論をサーベイして、21世紀における銀行の位置づけに関する理論的基礎を明らかにしている。以上の2点に関しては、研究代表者がシカゴ大学に滞在して行った共同研究が基礎となっている。 第3に、モラルハザードによって生じた被害額の規模を推定するために、26カ国の関して、金融破綻や公的資金投入の分析等、各種データを収集して金融市場に生じているモラルハザード問題の大きさの推移を数量的に国際比較可能な形で把握することができた。 とりわけ日本における被害額推定は今後より詳細に行う予定であるが、これまでの研究で各業態別銀行の費用や収益に関する詳細なデータが蓄積されているデータをアップデートし、次年度での研究に必要なデータ整備も整備した。それに基づいて、例えば、90年代の低金利政策による預金者から銀行部門への資金移転額など、一定の基準に基づいて銀行保護政策の社会的コスト等、いくつかの仮定に基づいたモラルハザードの金額の包括的推計を進めている。
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