本年度は研究最終年度であり、研究の推進と共にこれまで収集したデータを利用した研究の推進と成果の執筆、内外諸雑誌への発表、国内外での研究成果の報告等を行った。その一つは、金融市場におけるモラルハザードと法的規制の関係を、モラルハザードが典型的な形で起こっている東欧や中国を含む旧社会主義諸国と対比して国際的な視点で比較研究し、その成果を国際的Journalへ掲載し、北京の国際学会での発表、復旦大学・東北財経大学での招待講演、国内諸研究会での報告等を行い、大きな反響があった。また一つは、90年代以降世界的潮流となっている銀行の巨大合併にモラルハザードの要因がないかどうかを実証的に検討する研究を推進し、同じく論分執筆と研究発表を行った。この点については、日本を含めて世界的に銀行の規模が最適規膜を上回って巨大になりすぎていること、巨大銀行合併の誘因として、Too-big-to-discipline-adequately(TBTDA)と、よばれる経営者のモラルハザード要因が存在し得ることが明らかになった。これは金融行政上においても、世界最大規模の銀行を持つ日本の現在の金融危機とも直接に関連する重大な論点である。また、個人金融を対象とする銀行の規模は小さい方が効率的であり、大規模銀行は組織としてより高い利鞘が期待できる中小企業向け金融には不適切な組織である可能性があることも明らかになった。これらの発見はいずれも新たな金融制度を考える上で具体的に政策に反映されるべき重要なポイントであり、国際的にも大きな関心を呼んでいる。 3年間の研究期間を通して、21世紀の新たな金融制度の方向性を具体的にかなり明らかにする成果が得られたと思われ、今後はこれらの成果を集約した書物を執筆する予定である。
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