研究概要 |
ASEAN諸国による対日・対米の貿易のみを考慮に入れたモデルにおいて最適な通貨バスケット制を分析したIto, ogawa, and Sasaki(1998)のモデルを拡張して、ASEAN域内の貿易をも考慮に入れた理論モデルを構築した。その理論モデルの特徴は、ASEAN域内の貿易を導入することによって、ASEAN各国の通貨当局の反応関数が明示化されるところにある。理論モデルにおいては、ASEAN諸国の内の2国を想定して、その2国の対ドル為替相場と対円為替相場がこれらの2国の貿易収支に影響を及ぼすなか、これらの2国の通貨当局が貿易収支変動の安定化を目標として為替相場政策(通貨バスケットに占めるドルと円のウェイトの調整)を行うことを想定する。このような理論モデルにおいて、相手国がドル・ペッグ制を採用しているときには、自国が最適な通貨バスケット制を採用できず、ドル・ペッグ制を採用せざるを得なくなる可能性が示された。このことを両国において考えると、為替相場政策における「協調の失敗」が生ずることになる。為替相場政策における「協調の失敗」の可能性に関する実証分析も行った。具体的には、ASEAN5諸国及び中国・韓国のデータを用いて、ASEAN5諸国あるいはASEAN5諸国+中国・韓国の他の国がドル・ペッグ制を採用し続ける中で、最適な為替制度を採用するケースと、すべてのASEAN諸国が最適な為替制度を採用するケースとを比較して、「協調の失敗」が発生する可能性を分析した。分析の結果として、いくつかのケースで、為替相場政策における「協調の失敗」が発生する可能性が得られた。結論としては、「協調の失敗」を回避するための手段として為替相場政策の国際協調が重要であることが示された。
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