本年度の研究で詳しく分析した問題は事象研究において人工変数(generated regressor)問題である。人工変数に関する文献では仮説検定の問題が重視されているが事象研究において人工変数を分析すると仮説検定以前の問題として推定量は一致性をもつかどうかということがこの研究の大事なポイントの一つである。事象研究において興味のある回帰モデル(構造方程式)に必ず被説明変数(超過収益率)を観測することができなくて、場合によって説明変数(例えばリスク又は拡散係数)を観測することができないケースがある。観測できない変数を含むモデルを推計する方法は第1段階として別のモデル(補助方程式と呼ぶ)を利用して観測できない変数を何らかの形で推計し、第2段階として構造方程式にある観測ができない変数の代わりに推定値を使って推定することである。観測のできない変数をこのように扱い、構造方程式をOLSで推定すると一致推定が得られないケースがあり、この場合操作変数法(IV)でモデルを推定することによって一致推定量が得られるケースがある。このケース分けは構造方程式の標本数と補助方程式式の標本数との関係又は人工変数の中身などにも依存することを明らかにした。構造方程式の一致推定量が得られたとしても仮説検定の問題を分析すると推定量の分散の一致推定量としてOLS又はIVの通常の分散をそのまま使えるケースがあり、OLS又はIVの分散を修正する必要があるケースもある。このケース分けは何に依存するかを明らかにした。規模の小さいモンテ・カルロ・シミュレーションを利用し、標本数の限られた時、違う推定量・分散修正方法の性質も調べた。
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