事象研究はある事象・ニュースが企業の株価又は発行した社債の価格にどのような影響を与えるかを調べる手法である。本研究の目的は事象研究で起こるいくつかの計量経済学問題を分析することである。第一に、興味のある回帰モデルに人工変数(generated regressor)がある場合、その変数の利用はどのような問題を引き起こすのかを理論的に分析した。人工変数を利用することによって第二段階の推定量の一致性や推定量の標準誤差への影響は第一段階の推定モデルの標本数、第2段階の推定モデルの標本数や利用した人工変数の種類などに依存することを明らかにした。これらの問題の解決策は細かく提案した。第二に、人工変数の利用は小本数の場合、どのような影響を与えるかをモンテ・カルロ実験で分析した。実験の結果によると、ある操作変数推定量は最小二乗法(OLS)型の推定量よりバイアスが小さいことが判明したにもかかわらず、人工変数の係数に関する仮説検定を実施すると、人工変数の存在はその検定のサイズと検出力にあまり影響を与えないよう。それに対して非人工変数の係数に関する仮説検定を実施すると、人工変数が必要な場合(係数の真値はゼロではない)、検定のサイズがかなり悪い。第三に、人工変数問題の解決策は事象研究の実例とそれ以外の実例で例証した。この解決策はシステム推定、標準誤差のWHITE修正、標準誤差のNewey-West修正や操作変数法を含む。最後に、日本の事象研究において株価の代わりに社債の価格を利用することを検討した。新規発行社債の価格形成を調べるのに、日本証券協会が発表する店頭売買参考値の利用は妥当と判断された。
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