平成14年度は、平成12年度から3年間にかけて行なってきた研究の最終年度であり、本研究課題の取りまとめに向けて精力的に研究活動を行なった。 まず、平成12年度に作成されたデータ・ベースをもとに、さらに拡張を行い、より長期間にわたるデータ・ベースの整備を行なった。そのデータ・ベースを利用して、最新の計量経済分析の手法を用いて、実証的な分析を行なった。分析の対象となる標本期間は、1757年から1827年である。 実証分析の主なねらいは次の2点である。第1は、当時の先物市場と直物市場のボラティティの動きが近年のファイナンス理論の標準的なモデルの1つであるEGARCHモデルであらわすことができるかどうかを検証することである。第2は、Cheung and Ng(1996)のCCF法を用いて、直物相場と先物相場の相互依存関係について、平均と分散の双方について因果関係の分析を行うことである。 その結果、幾つかの興味深い点が明らかとなった。まず、江戸時代の米先価格のデータをEGARCHモデルで推定したところ、結果は、良好であった。つまり、江戸時代の市場メカニズムを現代のファイナンス理論によって分析することが可能であることが明らかとなったわけである。次に、CCF法による分析の結果、直物先物の間には、双方向の因果関係が見出されることが明らかとなった。つまり、当時の直物相場と先物相場とは密接な連携関係があった事がわかる。 江戸時代の市場経済は、同時代の欧米に勝るとも劣らない先進性を持っていた。米本位制度という枠組みの中ではあるが、貨幣経済の発展には目覚しいものがあり、世界初の先物市場といわれる堂島の米市場が開設された。当時の商人達は、創意工夫をこらし、市場経済の原型ともいえるものを生み出してきた。この時代の分析を通して、現代の困難な経済状況に対して何らかのメッセージを得ることが可能となれば幸いである。
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