研究概要 |
ガバーナンス(企業統治)が働いていれば,経営悪化に陥った場合,合理化を試みるであろう。しかしながら,日本の銀行はほとんど外部からモニターされておらず、ガバーナンスはほとんど働いていないという主張が存在する。本研究では,1990年代の日本のデータを用いてガーバナンスについての実証分析を行った。実際には,資本に対する経費率・従業員比率・賃金率・店舗数比率を経営合理化の一部を表す変数と考え,それらに対して株主のコントロールや金融当局との密接度が及ぼす影響を考察した。株主のコントロールとは株式集中度・浮動株集中度・特定株比率・生保会社株式保有率・外国会社株式保有率で測り,金融当局とは当時の大蔵省および日本銀行から受け入れた天下りによる役員数をもとに測っている。また,数量的分析の際には,銀行におけるBIS規制等で議論された負債と自己資本の合理化に与える影響を考慮して,総資産に対する負債比率も用いて分析を行っている。 結果は,株式集中度・特定株比率が本研究で経営合理化の指標として用いた賃金率に対し,統計的に有意に影響を与えていることが明らかになった。しかしながら,経費率・従業員比率・店舗数比率の変化や浮動株集中度の影響には説明のつかない動きが統計的に有意に見られた。生保会社株式保有率や外国会社株式保有率も理論を支持する結果がほぼ見られたが,統計的に有意ではない結果が多く観られた。負債比率については経費率・従業員比率における経営努力に対しての反対の影響として観測されたが,株主と債券者間に発生するエージェンシー問題が強く影響したと考えられる。また,経営努力における金融当局との関係は統計的には見られないことが分かった。 分析では明示的な結果が観られなかった経営悪化の状況や金融当局の関係の影響を新たな方法を用いて分析を継続している。
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