破綻した金融機関の整理時に、破綻銀行の受け皿となる銀行の利害関係者に生じ得る影響、とりわけロス・シェアリング(損失分担)ルールが導入された場合に起こり得る利害関係者間の富の移転について、不確実性下の請求権価値評価の基礎理論であるオプション評価理論に従って資本市場での評価の視点から検証することが、本研究の目的であった。研究初年度である平成12年度は、上述した基礎理論の観点からの理論モデルの構築と実証用の計量モデルの導出、そして必要なデータの収集可能性に着手した。そして、平成13年度には実証に重点を置いた研究に着手したが、2001年4月に実施が予定されていた銀行預金のペイオフ制度の導入が急に1年延期されたため、実際のデータではなく、シミュレーション分析を行うにとどまった。ペイオフの実施延期という外的要因のため、実証データによる裏づけの作業も延期せざるを得なかったが、2002年4月実施がほぼ確定した2001年末頃から、すでに公的資金を注入された金融機関で「富の移転」に関連する財務意思決定の事例が観察されるようになった。代表的なものは、「政府保有優先株への配当」の決定などである。
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