わが国の経済は、バブル経済の崩壊後、数次の経済対策や金融緩和にも関わらず、民需中心の自立的な成長過程へ円滑に移行できず、その潜在力を十分に発揮できないでいる。「失われた10年」と呼ばれる所以である。短期的には景気回復をはかる必要があるが、中期的には行政改革、財政改革などを通じて産業構造、経済構造を改革し、長期的には高齢者の福祉を含めたセーフティネットを充実させ、環境にも配慮した維持可能な安定した社会を目指す必要がある。本研究の目的は、このような認識に基づいて、金融市場を組み入れた重層世代一般均衡モデルを構築(理論分析)した上で、応用一般均衡によりさまざまな政策シナリオの効果を定量的に検討することである。 3年間の研究期間の2年目にあたる本年度は、昨年度の成果を踏まえて以下の3つの作業を進めた。(1)人口高齢化の進展をさまざまな(所得、利子率、価格、寿命)の不確実性の増加として捉え、これが人々の経済行動(貯蓄その他)に及ぼす影響を検討し、個人金融に関する研究会報告書(村本孜編、2001年6月)に発表した。(2)応用一般均衡分析は社会勘定行列SAMに基づいたモデルを構築し、数理計画法プログラムGAMSを使用して行う予定であるが、その準備としてGAMSの利用法を検討して成城大学『経済研究』(2002年3月)に発表した。引き続きモデルの拡張を試みている。(3)理論分析においてもoperationalなモデルとするためには、重層世代一般均衡モデルのさまざまな関数の関数形を特定して比較静学を行う必要があるので、経済学における数式処理プログラムMathematicaの利用法を検討し始めた。
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