流通系列化の動揺は、長らくチャネル研究を支配してきたパワー・コンフリクト・パラダイムの限界を表し、結果的に流通系列化へのアンチテーゼとして製販統合的チャネル(製販同盟・SCM等)の革新性とチャネル・パートナーシップ・モデルの拡散をもたらしたといわれる。本研究では、このように流通系列化が歴史的使命を終えている一般的な視点とは違い、依然として日本の流通システムにおいて重要な役割を果たしていると考え、分析を進めた。 本研究では、流通系列化の極端な行為類型としての「小売専売店」を築き上げた資生堂・松下・ワールド三社のケースに取り組んだ。その極限形さえも、そう簡単に崩れない(それどころかかえって強化する動きさえもある)ことを提示し、逆説的に流通系列化のしたたかさを示したかったからである。三者のケース分析からは、それぞれの企業が流通系列化と同時に新たなチャネル構築に取り組んでいる模様を観察することによって、流通系列化と製販統合的チャネルの相補的関係が推察された。 本研究では、これらのケースからの洞察が、チャネル論に問いかけることに注目した。流通系列化は、現状的には高度成長期に比べれば、その量的かつ質的側面から縮小してきたが、歴史的プロセスからみれば、寡占メーカーは環境変化に対応するために意図的にチャネルを縮小・拡大するダイナミック・チャネル戦略を採ってきたと考えられる。本研究では、それをもって、日本の寡占消費財メーカーのチャネル戦略が、チャネル・インタフェイス管理空間を戦略的に調整していると考えた。さらに従来のチャネル研究の教えを再構成し、状況的要因としてのパワー変数(パワー・バランスとパワー・インバランス)、政策的要因としての信頼変数(人格的信頼とシステム信頼)を取り上げ、チャネル現象の類型化を試み、結果的に流通系列化と製販統合的チャネルが優れた戦略行動の産物で相対論的に捉えるべきだと主張した。
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