研究概要 |
意図せざる結果の探究は,その成立時点から現在に至るまで社会科学の主要な関心事であったといっても過言ではないが,経営学的な研究は,この社会科学の伝統的な流れの中に位置づけられないまま現在に至っている. 今回の研究では,まず第1に,アメリカ経営学と日本経営学の発展史をその成立から今日に至るまでひもときながら,実は若干の例外を除いて両経営学の伝統に「意図せざる結果の探究」がほとんど存在しておらず,「科学としての経営学」を目指す活動として発展してきた部分がほとんどであることが示されている.しかし,近年にいたって,実は,経営学の研究においても「意図せざる結果」を探求することが意味があり,可能であるという立場が登場しつつあることも示された. 第2に,こういった学説史的な議論が整理された後で,さらにいかにすれば「意図せざる結果の探究」を促進することができるのかという視点から,思考法の整理が行なわれた.素朴行為記述,変数システム記述,行為システム記述という3タイプの思考法と,後2者の弁証法的活用が重要だという示唆が得られている.素朴行為記述とは,一般の人々が通常心に抱く「周囲の人間を登場人物とするドラマ仕立てのストーリー」である.これが必ずしも大局的にみて客観的な記述として合意形成できないものであるのに対し,変数システム記述と行為システム記述はより多数の間主観的合意形成を目指す記述である.変数システム記述は,あたかも社会システムを変数のシステムとして扱おうとするものであり,近年のオーソドクシーと言えるだろう.行為システム記述は,、この変数システムの矢印の部分を人間の行為として読み解くものである.しばしば多くの研究者が変数システム記述をもってすべてが解明されたと思いがちになるが,実は変数システム記述を出発点として行為システム記述へと到達することが社会研究の主たる目的なのである.
|