平成12年度から14年度の期間の前半においては、旧社会主義圏から離脱した東ドイツを含めた東ヨーロッパ諸国の市場経済体制への移行についての先行研究について検討した。後半においては、市場経済に移行した国の中で特にヴェトナム共和国の経済システムに焦点を当て具体的に実証分析を行った。 旧社会主義体制から市場経済体制(資本主義体制)へ移行し、企業改革を実行した例として、旧東ドイツを取り上げた。旧東ドイツの場合では、ドイツ統一後に旧国営企業を民営化する過程で、合併・清算を行うことで産業再編成を実現することであった。旧社会主義から離脱して市場経済体制に移行したその他の東ヨーロッパ諸国および旧ソ連権の国々の企業改革は、改革の達成度合に差はあるものの、概ね旧東ドイツを典型的な例として類似性をもっていたと言える。 もう一つの例としては、現在もなお社会主義体制を維持しながら、社会主義的な市場改革を遂行している代表的な国として最初に中国が挙げられる。中国に関してはわが国においても多くの研究がなされている。社会主義国のもう一つの例として、中国と比べ企業改革の進捗度合が部分的に後塵を拝しているものの、「ドイ・モイ政策」という独特の企業改革を推し進めているヴェトナム共和国が挙げられる。ヴェトナムの企業改革について、わが国の先行研究は、余り多いとは言えない。そして現在までのわが国のヴェトナム企業改革研究は、国家政策の動向分析といったいわばマクロ的な分析であった。本研究の特徴は、ヴェトナムでの現地調査を多く行い、企業の実態を財務的側面から把握することに主眼をおいた。わが国の先行研究では、企業の財務的側面について分析したものは皆無であろうと思われる。ヴェトナム企業および国家政策にとって、個々の企業財務的実態は、最も非公開、秘密にしているものである。それだけに生の資料(財務諸表)を入手することは、ほとんど絶望的であり困難を極めたが、典型的な大規模国営企業、小規模の民間会社および日系企業のそれを入手し、過剰在庫、具体的な資金調達などの実態について分析を始めつつある。
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