本研究の第1の成果は、企業統治論の体系化に関する独自の試論を提示し得たことである。それは、経営者を主軸に据えて、11の問題領域、すなわち、(1)市場経済体制と企業統治、(2)企業法制度と企業統治、(3)企業形態と企業統治、(4)企業支配と企業統治、(5)企業倫理と企業統治、(6)企業観・企業目的観と企業統治、(7)経営者と企業統治、(8)企業の運営機関と企業統治、(9)株式所有構造と企業統治、(10)企業競争力と企業統治、(11)企業統治制度の国際比較から成っている。筆者は、企業統治論を経営者論・企業論の中核をなす実践的理論とみており、これによって、企業統治に関する内外の研究のより大きな基盤を形成することができた。その成果は、"How can we formulate a theory of corporate governance?"に纏められた。第2の成果は、21世紀初頭における企業統治研究の重要な課題として、この企業統治論の体系化に加えて、企業統治の基本問題の解明、企業統治の鍵概念の国際比較、企業統治機能の解明、および企業統治制度の構築があることを知り得たことである。わけても企業統治には、企業不祥事の抑制機能と企業競争力の促進機能とが本来あると信じられていることに、筆者は疑問を抱き、2001年7月、経営行動研究学会第11回全国大会において、これを提起し、その成果を「新世紀の日本における企業統治の光と影」に纏めた。第3の成果は、優れた企業統治構築の指針とされる企業統治原則策定の動きに関わっている。これについて、筆者は、OECDのグローバル原則や、わが国でその動向があまり知られていないドイツと中国の企業統治原則を取りあげ、その成果を「OECDのコーポレート・ガバナンス原則」「ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス規範策定の動き」および「中国のコーポレート・ガバナンス雑感」に纏めた。
|