本研究の目的は、証券市場のダイナミズムの中で、多国籍銀行がどのように対応してきたかを、歴史的・実証的に研究することにある。 まず昨年度は、証券市場のダイナミズムの領域に研究に重点をおいたが、本年度は多国籍銀行の経営戦略リスクの回避について調査・研究をした。 具体的には、米国のチェイス・マンハッタン銀行、シティー・バンク、英国のHSBC、ロイズTSB銀行、バークレイズ銀行、ナショナル・ウエスト・ミンスター銀行、日本の三菱東京銀行、三井・住友銀行、みずほファイナンシャルズ、UFJ銀行などの経営行動を対象とした。 1990年代、証券市場の機関投資家化を反映して、銀行経営は株主価値経営を展開している。株主価値経営とは、企業が利益率を引上げ株価を上昇させることで、株主の株式売却益を最大化させようとする行動のことである。この場合、多国籍銀行は、リストラをしたり、債権を流動化(証券化)、リテイル業務への特化をすることによって、利益率を引き上げてきたのである。この経営行動は、機関投資家に支持されることによって、チェイス・マンハッタン銀行やロイズTSB銀行を勝ち組にすると同時に、その他の銀行にも、これらの手法への転換をせまったのである。 勝ち組銀行は、株主価値経営に積極的に挑戦することによって、機関投資家の株式売却益の最大化を実現したが、こうした行動を経営戦略リスクの回避と呼ぶ。他方、負け組銀行は、株主価値経営に果敢にチャレンジ出来ず、機関投資家から見放され、買収されるなどの経営戦略リスクを被ってしまったのである。 本研究は、これで完結するが、今後の研究としては、株主価値経営の地域的・歴史的違いを明らかにすると同時に、株主価値経営の弊害-地域経済の疲弊・衰退、雇用の縮小・流動化について論究してみたい。
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