アナリストによる企業評価が株価と高い相関を持ち、それゆえに企業の内部業績測度もアナリストの企業評価測度と共振するという仮説を検証することが本研究の目的である。 アメリカにおける最近の実証研究によれば、株価は会計利益(残余利益)ともっとも高い相関を持ち、EVAおよびキャッシュフローがこれに次ぐ。しかし、このことは会計利益の絶対優位をしめすものではなく、市場が利益を重視しているという現状を反映しているにすぎない。この場合、市場といってもそれは実際にはアナリストのことである。なぜなら、個人投資家だけでなく機関投資家のファンド・マネージャーも自ら企業を分析・評価するわけではなく、アナリストの評価に頼っているのが現実である。それゆえ、証券市場(実際にはアナリスト)が株主価値の評価にあたって、どのような業績測度を重視するかによって、業績測度の説明力は変化すると推測される。業績測度としてEVAが普及すれば、EVAと株価の相関はより高まるという仮説が想定される。 本研究では、日本企業の株価と各種の財務数値すなわち、報告利益(実績値)、EVA(実績値)、アナリストの予測値との相関を実証的に分析し、仮説を検証することを企図している。最終的な結果を得るまでには、いま少し時間を要するが、これまでの分析ではかなり良い感触を得ている。 アナリストが重視する測度が株価に対して高い相関を持つとすれば、企業経営者もまたそのような測度を重視するであろう。したがって、内部業績測度はアナリストが重視する測度と共振するであろう。少なくとも、市場で高い評価を得ている企業のヒアリング調査ではこの仮説は検証された。 公表財務データと内部管理目的の業績測度はそれぞれ分離して考えられてきたが、実は両者は相互に影響しあっていることが確認された。
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