本年度はニュージーランドの財政及び経営システムにおける貸借対照表の機能と位置づけを中心に検討を行った。同時に隣国のオーストラリアと比較することにより相互作用と背景になっているNPMの概念を検証することにした。その結果、明らかになった事項は以下のようである。 1.ニュージーランド政府では、貸借対照表の正味財産(net worth)が長期の財政政策の健全性を評価する尺度の一つとして使用されている他、省庁やクラウン・エンティティと称されるわが国の独立行政法人や特殊法人に相当する組織の経営効率を促進する機構として使用されている。とりわけ、後者は資本利益率に相当するキャピタルチャージ率を資本投資モデルにより算定し、これに正味資産を乗じて資本費用を求め、コストに算入することにより資産の有効活用を図るものである。 2.また、予算編成も発生主義で行われているため、既往の有形固定資産は再調達価額で算定した原価償却費と資本費用(キャイタルチャージ率を正味資産に乗じたもの)の合計額に相当する資源配分がなされ、更新資金を自己造成することになっている。ただし、新規取得は資本注入がなされる。 3.オーストラリア連邦政府では、1990年代前半にはニュージーランドの市場化・企業化のNPMモデルにしたがった改革に否定的であったが、後半になり最終成果であるアウトカムを重視しつつアウトプット管理を行うNPMを全面的に採用するようになった。発生主義による会計・予算や実施機能の分離や業績給の導入がなされた。 4.しかしながら、ニュージーランドでは機能分化による効率化の追求が部門主義の弊害を招き、また、全面的な調整や長期的な視点を軽視するNPMの負の側面が生じた。これを克服するため、会計面で人的資本の価値を認識し、環境、社会及び経済の3つの観点から総合的に業績を測定するトリプル・ボトムラインの概念が提唱されている。
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