本年度は、4年計画の最終年であり、「アジア諸国へのケース・スタディ」の継続と最終取りまとめのため、急速に「世界の工場」としての存在感を高めている中華人民共和国の日系企業への研究プロジェクトを計画していた。しかし交付申請書にも書いたとおり、SARS(新型肺炎)が中国を中心に流行していたので、急遽調査対象地域をシンガポール、ベトナム、マレーシアと日本の親会社へ変更した。 具体的には、松下電器のアジア統括本社であるアジア松下電器、ベトナム松下電器、マレーシア松下電子部品という日系企業を訪問し、日本多国籍企業におけるアジア統括会社の役割、海外子会社の経営管理実践と管理会計・原価管理の実態と課題について、面接調査と工場見学をもとに実証研究を行った。 国内では、わが国多国籍企業の海外事業展開について、日本会計学会、日本管理会計学会、日本原価計算学会などの会議に参加するとともに、資料収集をおこなった。 以上の調査研究に加えて、日本国内企業への面接調査やこれまでの欧州諸国の日系企業の経営活動と管理会計の調査結果の動向(旧西欧諸国から旧東欧諸国への移転)と比較すると、東アジアでの、東南アジアから中華人民共和国へのシフトという同様の現象が見られ、そのアジア的な特性を明らかにする調査資料を整理することができた。同時に同じ「アジア的」といっても、これまで調査研究してきた東南アジア(シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム)と中華人民共和国や台湾では、それぞれの国の成り立ち、歴史、社会、文化などの多様性が大きく、それらの要因が、日系企業の経営環境、管理会計に与えている影響についても慎重に吟味する必要性が高く、ヨーロッパ地域以上にその落差は大きいことが窺えた。現在収集した調査資料を整理、分析すると共に、グローバル管理会計論、多国籍経営論に関する内外の文献の収集を継続している。またこれまでの成果を「研究発表」としてとりまとめている。
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