本年は、負債項目の個別的評価とその計算構造的解明に取り組んだ。本年度の研究成果は、9月に明治大学で行われた日本会計研究学会における2つの報告とその後に公表した3編の論文(裏面を参照)に表されている。日本会計研究学会では、統一論題報告において「退職給付会計と利益概念」と題して報告を行った。新しい退職給付会計においては、制度資産を全面的に公正価値評価して運用益を計算し、遅延認識を経て利益計算に算入される。満期保有の債券も公正価値評価され、その未実現評価益も同様の処理をされる。また、退職給付債務として採用されている予測給付債務は、割引率の変化に伴って毎期末に再評価される。この場合、キャッシュ・フローの金額の再評価はせずに、割引率の変化による評価替えをするだけである。これは、金融負債の公正価値評価の中で、負債の評価減による評価益を実現する可能性がほとんどない場合に評価益を認識するケースのアナロジーということができる。上記の2つの評価が認められることは、これまで維持されてきた「実現利益」概念の崩壊を意味している。退職給付会計基準は、金融資産・金融負債の公正価値評価に結論が出ていない状況において、JWOの結論を先取りしたものとなっている。また、同学会の特別委員会報告において、「貸借対照表中心観と損益計算書中心観」と題して報告を行った。ここでは、上記の退職給付引当金以外に、繰延税金負債、リース負債、偶発負債等について、具体的な数値例を用いて、ストックの評価という視点とフローの配分という視点から負債の金額及び損益計算への影響を比較した。その結果、負債の公正価値評価を前提とした会計上の利益概念は明確にされていないこと、公正価値評価が極めて困難なケースが存在することを明らかにした。その後は、2つの報告に対するコメントを分析し、計算構造的側面での研究を進めた。その成果は、裏面の研究発表の後半3つにおいて公表している。
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