本研究は、会計データをインプットデータとするオールソンモデルによって推定される企業価値(以下、理論価値)の性質を、日本企業データで分析した。まず、既存の研究において利用されてきたモデルを、単純化の仮定を検討することによって整理したうえで、新しい試みとして残余利益ダイナミクスを考慮するモデルを提示した。そして、それらのモデルから各サンプルについて複数の理論価値を計算し、(1)理論価値と同時的株価との相関を分析する、価値関連性の分析と、(2)理論価値と長期的な株式パフォーマンスの関係を分析する、投資戦略における有用性の分析を実施した。(1)価値関連性の分析については、オールソンモデルから算定される理論価値と貸借対照表上の純資産簿価を比較した場合、純資産簿価の価値関連性が、親会社単体財務データおよび連結財務データの両者において、相対的に高く、これは、Frankel and Lee[1998](以下、FL)と相違するものであった。実績利益とアナリスト予想利益を比較すると、アナリスト予想を利用している場合のほうが理論価値の価値関連性が高かった。また、残余利益ダイナミクスを考慮することで、価値関連性が改善することが確認できた。(2)投資戦略における有用性の分析については、理論価値と純資産簿価を、それぞれ投資戦略の指標として利用した場合の3年間の投資パフォーマンスを比較したところ、全体期間では、純資産簿価に基づく投資戦略のパフォーマンスが最も高く、FLと相違するものであった。FLが主張するような結果(理論価値によるパフォーマンスのほうがよいという結果)は、1994年から1995年の部分期間においてのみ確認できるものであり、全分析期間がバブル期およびバブル崩壊期を含んでいる点を考慮すると、経済環境の影響がこのような結果を招いていると推測された。
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