排出権取引会計を考える際、一貫していない属性・評価基準に混乱したのは、そもそも2つの異なる会計の立脚観を同一座標で捕らえようとしたからである。すなわち、単純ではあるが、以下の2つのアプローチがある。 (1)資産・負債観(アプローチ)(Asset and Liability View)⇒価値測定⇒時価主義⇒主観的評価の介入⇒将来キャッシュ・フローの現在価値⇒未来志向⇒経済的利益の追求 (2)収益・費用観(アプローチ)(Revenue and Expense View)⇒原価(費用)配分⇒原価主義⇒客観的評価(リスク・不確実性の排除)⇒取得原価⇒過去情報志向⇒会計学的利益の追求 さらに言及するならば、資産・負債観では、会計的利益概念のなかに、異質なファイナンスの考え方を基盤とした経済的利益概念が混入されてくることになる。すなわち、より客観的な会計数値を求めるのでなく、一定の条件のついた主観的な価値計算に移行していく恐れがある。 このように考えると、排出権の属性とそれに伴う評価基準の多様性があってしかるべきであり、その観点から米国SO2排出権取引制度、英国排出権取引制度およびフランスPwCによるディスカッション・;ペーパーの会計処理を考えれば全体像が見えてくるのである。すなわち、概観すれば、米国SO2は、収益・費用観に基づき損益計算書を重視する取得原価主義、フランスは資産・負債観に基づき貸借対照表を重視する公正価値(時価)主義、UKは、原価・時価を用いる異種併存(ハイブリッド)型の会計フレームワークを持ったものといえよう。 このような「論理」こそが、排出権をどのように捉えるのかを混乱させた原因であったのである。
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