3年間にわたるこの研究においては、英語、日本語の文献、資料の検討とともに、アメリカ、カナダの中央政府、州、カウンティー、市レベルの監査機関やオンブズマン、さらに名古屋市、多治見市、三重県、東京都などの日本の地方自治体の監査機関や議員、中央の会計検査院や総務省などへのヒアリング調査を行なってきた。 その研究成果を、日本における監査機関への示唆という視点から要約すると、次のような点が指摘できる。 アメリカにおいてはGAOが議会の付属機関であったために、行政外部からの有効な監査を実施してきた歴史があるが、それが初期の財務監査(証憑監査)から3E監査や財務諸表監査へと展開しようとした際に、まずは行政内部における財務諸表の整備を前提にした内部監査の確立が不可欠であったということである。そのため、1950年代から3E監査が試みられながら経済性、効率性の監査は不十分で、1990年頃の行政内部の財務管理システムと内部監査の整備を待って初めて実効的になったといえる。 また、有効性監査についても、1990年代において、行政内部におけるアウトカムを重視した行政評価が導入され、それを会計検査院が外部からさらに監査する形で実質化することになった。それを前提に、会計検査院は議会に対して、政策の決定段階における意思決定のためのデータの提供という役割を果すようになってきている。 ここから日本の監査機関に関していえることは、日本においても、行政の財務情報の整備及び内部監査のシステムを確立し、さらに行政評価のシステムを導入する事が、外部監査機関の実質化、高度化のために不可欠だということである。 しかしながら、日本の政治状況のもとでは、地方自治体の場合には議会や監査機関が事実上、首長・行政に対して外部機関としての役割を果しにくく、中央政府の場合は国会からも独立していることによって却って会計検査院の監査の実効性が弱くなると言う独自の問題があることも明らかになった。
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