研究概要 |
この研究により得られた結果は以下の通り。 1.向井変換の研究: K3曲面やabel曲面上の層のモジュライ空間を調べるのに大変有効な道具として、向井変換という層の変換がある。これは層の変換と書いたが実際は層の移った先は必ずしも層にはならず一般には層の複体(より正確には導来圏の対象)になる。そこでいつ層が層に移るか?また安定性が保たれるか?という問題は応用上大切である。去年度、一般には安定性が保たれないことをabel曲面の場合に示していたが、本年度はK3曲面の場合にも反例を構成した。また肯定的な結果として、次数が十分高ければ安定性が保たれるという漸近的安定性をある仮定のもとしめした。さらに向井によってもともと導入されたabel曲面上の向井変換についてはピカール一般という仮定のもとモジュライ空間の双有理構造を保つことを示した。 2.K3曲面上の2次元のモジュライ空間についての研究: 2次元のモジュライ空間は特異点がない場合は向井によってK3曲面になることが知られている。特異点を持つ場合の研究は阿部により有理2重点をもつK3曲面になることが観察されていたが、わたしは大西宣明と共同で、このことの証明を完成し、また実際にA, D, E型すべての特異点が現れることをしめした。この過程で、特異点に付随した単純Lie代数が自然に現れた。とくに基本ルートベクトルを使って例外集合が表現された。またワイルchamberがGIT商に現れるchamber構造と一致することがわかった。
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