研究概要 |
楕円曲線の整数点の研究は、本来数論的観点から、Siegel, Baker等により深められてきた。その関数体類似は、Davenport, Stothers, Mason等の先駆的結果を経て、1980年代半にはABC定理に結実した。他方、特異ファイバーから楕円曲面を決定する、小平、塩田-小木曽、Persson, Miranda等による研究がある。従来独立に研究されてきたこれら二つのテーマが、モーデル・ヴェイユ格子の観点に立つと自然に結びつき、意義のある結果をうみだすことを、以下の状況で示した: まず、次のような多様な対象: (イ)ダーヴェンポート3対、(ロ)ある楕円曲線の最大ハイトをもつ整数点、(ハ)ある楕円曲面で特別な組み合わせの特異ファイバーをもつもの、(ニ)射影直線の分岐被覆で特別な分岐をもつもの、(ホ)リーマン球面から3点を除いた曲面の基本群のある特別な置換表現、などは互いにほぼ等価な関係にあることが分かる。(このような多様な結びつきは数学の内容を豊かにする可能性を有することは、経験の教えるところである。)ここで、ダーヴェンポート3対とは、(ABC定理の特別な場合をなす)ダーヴェンポートの定理の限界に位置する3個の多項式{f、g、h}をいう:すなわち、(fの3乗)-(gの2乗)=hであって、ある自然数mに対し、fの次数=2m、gの次数=3m、hの次数m+1となる。 とくに、有理楕円曲面に関する場合には、すなわち、上の記号でmが5以下の場合には、(イ)〜(ホ)をすべて明示的に対応させることができた。とくに著しい結果として、19-サイクルをもつ(代数的)K3楕円曲面は、(同型を除いて)唯一つ存在し、その定義方程式を具体的に書き下すことができる。 その他の実績:楕円モジュラー曲面を用いた興味深い符号(code)の構成、CM型のアーベル多様体のホッジ・サイクルについての研究、等がある。
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