研究概要 |
本年度も昨年度に引き続き、研究テーマを下記の二つの方向とし、こられについて基礎的な成果を納めることを目標とした。(1)(算術的)Macaulay化の川崎理論の中で重要な役割を果たすP-standard列のsequence propertyを解析しつつ、それに伴うUSD列の基礎理論を整備すること:(2)Reduction数が比較的小さいような極大準素idealに随伴するRees環やfiber coneなどの次数付き環の環構造を解明し、そのlocal cohomologyを簡便かつ実際的に求める方法を開発し、そして、最終的にはこれらの環のBuchsbaum性の実際的かつ効果的な判定法を確立することである。 川崎氏により算術的Macaulay化の構成の見直しが精力的に進められたことに伴い、USD列とP-standard列の関係は徐々にではあるが解明されてきている。P-standard列はUSD列を部分列として含むが列全体は必ずしもUSD列をなさない事などから判断して、必ずしもparameter系をなさないUSD列との関係の重要性は明らかであり、今後も継続してこの両者の相互関係を解析するべきであると再確認した。また、昨年度に引き続き、reduction数が高々1のminimal multiplicityを持つ極大準素idealを考察の対象とし、このidealの定めるfiber coneで特に(Buchsbaum)加群上のものは、いつBuchsbaum性を持つかを解明した。加群上のfiber coneの振る舞いは、環の場合と著しく異なり、parameter idealの定めるfiber coneがCohen-Macaulay性すら持つとは限らないことなどから推察して、それはかなり複雑である。しかし、この種のidealの定めるRees環のlocal cohomologyについてはすでに完全に解明できており、この成果を応用して、これらのfiber coneのBuchsbaum性を、加群の場合にも、Rees加群のlocal cohomologyの出現状況との関連で特徴付けることにほぼ成功した。 8月下旬、ほぼ一週間に渡りLe Tuan Hoa氏(Institute of Mathematics Hanoi, Deputy-Director, Vietnam)を横浜に招いて、勉強会を兼ねた研究打ち合せ会を開催した。Hoa氏からは、idealの持つ漸近的性質の研究の重要性について改めて問題提起があり、数多くの有益な助言を頂いた。今年度は、随伴次数付き環の算術的不変量の一つであるI-invariantが漸近的性質を持つことをほぼ完全に解明し一応の研究成果を収めた。そして、今後ともこの漸近性の研究も合わせて進めていくことを再認識した。
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