研究概要 |
M,M´を全測地的境界∂M,∂M´を持つコンパクトな3次元双曲多様体とする.さらに,いずれの境界も連結な閉曲面Σに同相であると仮定する.任意の擬アノソフ同相写像ψ:Σ→Σに対して,M∪M´の境界成分∂Mと∂M´をψ^n(ψのn回の繰り返し)を使って貼りあわせてできた3次元閉多様体をN_nとする.Thurstonの一意化定理より,N_nは双曲構造を持つが,この構造はM,M´の双曲構造を拡張したものではない.Kuessner(2000年)はlim_<n→∞>Vol(N_n)=∞であろうと予想していた.今年度の研究成果として,M,M´がどのような双曲多様体であるかに関係なく,次の等式が成り立つことが証明出来た. lim_<n→∞>Vol(N_n)/n=Vol(Σ×I_ψ). ここで,Σ×I_ψはψの写像柱を表すが,これも双曲構造を持つ.特にこの結果の系として,上のKuessnerの予想が肯定的に証明できる.N_nの位相型はnに依存しているので,それ自身の代数的極限を考えることは出来ない.本研究では,π_1(M)⊂π_1(N_n),π_1(M´)⊂π_1(N_n)に対応する被覆射影X^^~_n→N_n,X´^^~_n→N_nを考えた.X^^~_n,X´^^~_nは幾何的有限な双曲多様体であり,その位相型はnに依存しないので代数的極限を考えることが出来る.実際には,X^^~_n,X´^^~_nの代数的極限と幾何的極限を比較することによって上の等式が得られる.特に境界∂X^^~_nの(+)-側成分,∂X´^^~_nの(-)-側成分上の等角構造が決定する,タイヒミュラー空間の部分集合がプレ・コンパクトであるという事実が証明中で本質的に使われる. また,この証明で使用された議論は擬フックス群の幾何的極限の位相型を決定する問題にも応用出来ることが分かった.
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