研究概要 |
従来の計算論では,自然数上の関数に対する計算可能性が専ら論じられ,語(word)や木構造(tree structure)などの構造を持ったデータに対する計算については,それらのデータを一旦自然数でコード化し,その上で自然数関数の計算の理論を適用すればよいとする見方が多かった.しかし,そのような方法で捉えることができるのは,こうしたデータに対する計算の一側面に過ぎず,例えば木構造を用いて行われる数々の卓越したアルゴリズムが表している計算の本質を自然な形で正確に捉え,その性質(例えば計算量の解析など)を深く検討するには不十分である. 我々はこのような考え方に基づき,最近の研究論文"On Computable Tree Functions"で2分木を対象とする関数の計算について考察し,帰納的関数論の枠組みを拡張して2分木上の帰納的関数の概念を新たに導入し,その全体が,自然数によるコード化を介して計算可能な関数の全体と丁度一致することを示した.また,その際用いるコード化関数の選び方が上の結果に及ぼす影響について調べ,上の結果が成り立つためにコード化関数に要請される必要十分条件を得た. なお,木構造上の帰納的関数についての研究が英国の研究者により近年報告されているが,研究の動機が,木構造を扱うアルゴリズムの性質を詳しく検討するための数学的枠組みを構築したいといういう我々の場合とは基本的に異なっている.すなわち,本研究では原始帰納的関数の定義を木構造に拡張する際,木構造を扱うアルゴリズムがそうであるように,木構造自身の構成に関する帰納法に基づいているのに対して,彼らは単純に数学的帰納法の考え方に基づいて木構造上の原始帰納的関数を定義しているため,木構造を扱うアルゴリズムを彼らの枠組みで研究することはできない.
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