研究概要 |
今年度は主として次の2点に焦点を絞って研究を行った. 1.過去数年に亘って行ってきた我々の研究で,従来,自然数を対象とする計算について知られている計算論の枠組みを拡張することにより,二分木を対象とする計算に対する理論的な特徴付けが得られ,それによってこの分野を本格的に研究するための基礎が整えられた.そこで本年度は,それらの理論的な枠組みの一つをコンピュータ上に実際にソフトウェアとして構築する意味で,新しいプログラミング言語TLの設計とその処理系の実装を行った.この言語の表現能力は,二分木に対する計算可能な関数の全体とちょうど一致する.二分木やその他の木構造を基に組み立てられる種々のアルゴリズムの研究が,今後この種の処理系を用いてより直接的に行えることを期待している. 2.型理論および証明論との関連で計算の本質を深く追求する本研究の一環として,コンピュータの(特に理学的な)アイディアのルーツを探ることを兼ねてから考えていた.その方向の研究の手始めとして今年度は,人類にとって永年の夢だった「万能コンピュータ」の実現がなぜ20世紀半ばに実現したかを考察した.その結果,19世紀半ばに始まりその後1世紀足らずの間に急成長した数理論理学が,コンピュータ前史(コンピュータのアイディアが生まれ育つまで)において果たした極めて重要な役割を掘り起こすことができた.その結果を取り敢えず和文の論文としてまとめたのが,研究発表の冒頭に掲げたものである.
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