研究概要 |
現代のコンピュータがハードウェアとソフトウェアから成ることはよく知られているが,そのような構造に由来するコンピュータの持つ性格や,そうした機械が何故20世紀半ばに登場し,半世紀余りの間にこれほど広く普及し多様な用途を見出すに至ったのかについては余り知られていない.その理由の一つは,20世紀前半に急成長を遂げた数理論理学がコンピュータのアイディアの誕生に際して果たした重要な役割が十分解明されていなかったことによると思われる. 実際,数理論理学が人間の論理的思考を明確に記述する方法を提示することに成功したことによって,我々の論理的思考の構造や限界がその後次第に明らかにされてきたが,それとよく似た種類の記述をソフトウェアとして取り込んだ現代のコンピュータの概念の萌芽ともよぶべきものが,その数十年後に数理論理学の若手研究者によって発見され,更にその概念が他の論理学者によって現実のハードウェアへと橋渡しされた経緯が今回の研究で明らかになった. 一方,数理論理学は,数学における概念の記号化の非常に長い(そして緩慢な)歩みの中で,20世紀近くになってようやく誕生したことについても,今回の研究でその状況が少しずつ解明されつつある. 以上を要約すると,現代のコンピュータの基本的な考え方のルーツを探ることによって,普通あまり実際の役には立たないと思われている純粋に理論的な数学の研究が,実は現代の科学技術の基盤を非常に深いところで支えていることが明らかにされつつあるといえる.
|