研究概要 |
1.通常のd次元Levy過程の概念の一つの拡張として時間径数の多次元化がある。今回はN径数d次元Levy過程について考察し,今後の研究の方向性について有益な手がかりを得た。径数空間となるN次元空間の第1象限は半順序集合であり,Levy過程に対する定常独立増分性および見本関数の第1種不連続性の概念は自然な形で拡張される。しかし,このような一般化によって定性的に定義されるN径数d次元Levy過程の構造を完全に決定する問題は未解決である。佐藤健一氏は,N径数Levy過程に対する従属操作の下での,分布の自己分解可能性の遺伝問題を扱い,N径数Levy過程は径数空間の半順序に沿って考察する限りにおいては,付随するN個のLevy過程の独立和を用いて記述されることを指摘した。我々は佐藤氏の扱ったものより広いクラスのN径数d次元Levy過程の構成法を与えた。このクラスは森俊夫氏の意味で線形加法的でもある。非Gauss型の場合は,N次元空間の動径方向に不変なLevy測度から決まる無限分解可能ランダム測度を用いて構成される。Gauss型の場合は,N次元空間の動径方向に不変な測度とd次正定符号行列値関数から決まるGauss型ランダム測度を用いて構成される。 2.ダムの確率モデルについては,非加法的な流入を伴うダムの確率過程に付随するMarkov連鎖を,流入に対する周期性の仮定の下で考察した。このMarkov連鎖についても極限分布が存在するための条件および,極限分布の性質について考察した。これは既知の結果を深めているが,当初の目標に比べて不満足である。在庫過程に関しては山里眞氏の研究も参考にしながら,引き続き取り組みたい。 3.今年度の研究活動の中では,特に統計数理研究所の共同研究集会,および慶應義塾大学での科研費シンポジウムにおいて,今後の取り組みに有益なヒントと刺激を受けることができた。
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