研究概要 |
1.前年に引き続き,3次元乱流の直接数値シミュレーション(DNS)を大規模に行った.解像度は1024の3乗であり,レイノルズ数はテイラーマイクロスケールレイノルズ数で約380,460の2つである.これまでの定常状態をさらに長く伸ばし,時間平均をより長く取ることができた.これにより,これまで以上に安定した速度場の統計量が計算できた.小さなスケールにおけるさまざまな物理量の期待される確率密度関数が正規分布よりもはるかに広い裾野を持つ場合には,このように十分長い時間平均をとることがきわめて重要である. 2.このようにして得られた速度場のスケールとともに変化する統計法則の詳細なデータがまず得られた.すなわち,慣性領域における縦速度差や横速度差の高次モーメントおよびそのスケーリング指数,これらの速度差のさまざまなスケールにおける確率密度関数が得られた.速度差のモーメントのスケーリング指数が次数の増大とともにKolmogorov(1941)による理論から次第にずれてくることが明らかになった.さらにレイノルズ数の増加とともに,これらのスケーリング領域の増大の様子も明らかになった. 3.さらに進んで,乱流における大きなスケールから小さなスケールへのエネルギーのカスケードを特徴付ける量としてKolmogorov(1962)による,局所的に空間平均されたエネルギー散逸率の統計性および,Navier-Stokes方程式の慣性項によるエネルギー流束の統計法則を調べた.前者はいわゆる対数正規分布に従うと言われ,後者の分布についてはいまだ研究がなされていない.後者のスケーリング指数についてはマルチフラクタルに基づく理論的な解析の試みがあるが,十分ではない.本研究ではこれらの統計量につき,DNSにより詳しく調べ,両者の統計法則は異なることを示した.特に後者については初めて得られた統計量であり,今後,そのスケーリング指数や確率密度関数について詳細な解析を行う予定である.なお,これらの研究結果のうち前半は,2001年9月5日よりドイツのAachenで開催された計算物理の国際会議で公表され,後半については2002年3月25日より米国Santa Feで開かれる国際ワークショップで招講演として発表される予定である.
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