研究概要 |
12年度は,ナヴィエーストークス方程式の直接シミュレーションについて人工粘性項の寄与へのパラメータスタディを通して,誤差の与える影響を明らかにした.すなわち,具体的な数値流体の計算結果から数値解の全体を表現する量(空間で積分された量等)の時系列データを洗い出し,多次元のアトラクターを再構成し,そのフラクタル次元の計算やウェーブレット変換によって時系列の持つ非線型性を抽出した.特に,数値的な誤差に起因する構造不安定を持った複雑に見える現象のうち特異な挙動を示すものを洗い出し,その力学的構造を類別した.その場合,非線型な挙動を示す複雑系の内的構造を有効に視覚化できる動画による解析が有効であるので,高度な可視化動画システムも含めた新規解析手法の構築を行った.その結果,誤差の離散力学系に及ぼす影響についてその多種多様な分岐パターンを分類し,その中から特徴的な現象の意味づけを行った.物理的な不安定性と数値的な誤差による不安定性によるパターンの違いを明らかにする目的で,特に,低次元のアトラクターではよく知られたリミットサイクル,準周期的挙動およびカオス的挙動が複雑に変化する「カオス的遍歴」等の有効な概念の導入を試みた.結果は,いくつかの論文に発表した. 一方,数値解の信頼性を判断する上で必要となる数値解の収束の様子を評価するため,異なる精度で計算できる数値誤差を任意に小さくする手法を開発した.応用として,1次元のポワソン方程式の数値計算および自由境界問題に対して適用し,その有用性を確認した.
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