本年度は、集団遺伝学における以下の2つの確率モデルの研究を行った。 (1)優性の効果を伴う互助的中立突然変異モデル 互助的中立突然変異モデルの分子進化における役割については、これまで、主として、半数体モデル、もしくは、優性の効果のない二倍体モデルに関して、数理的研究が行われてきた。その結果、遺伝子の組み換え効果が強い場合は、二重突然変異体の集団への平均固定待ち時間が大きくなるため、分子進化には貢献できないとの結論が得られている。しかしながら、優性の効果が存在する二倍体モデルでは、平均固定時間は、優性の効果がない場合よりも小さくなる。さらに、平均待ち時間が大きくても、例えば、固定待ち時間の分布の10パーセント点が小さければ、この種の分子進化は起こり得る。以上の観点から、優性の効果の伴う互助的中立突然変異モデルを定義し、その諸性質を、主として、計算機シミュレーションを用いて考察した。その結果、平均固定待ち時間を用いることによる一般性がある程度確認された。一方、優性の効果を導入することにより、組み換えの効果が強い場合でも、平均固定待ち時間は大きくならず、したがって、互助的中立突然変異による分子進化が、現実に起こっている可能性が示唆された。 (2)環境変動下での無限対立遺伝子モデルと有効個体数 個体数の変化が定常確率過程で与えられる無限対立遺伝子モデルの有効個体数が、個体数の調和平均と相加平均の間に入ることを証明した。また、この定常確率過程を2値マルコフ過程に特殊化することにより、有効個体数は、個体数変動の自相関の増加関数であることを示した。
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