1.Wignerの交換関係は量子力学における正準交換関係の1つの拡張である。この交換関係にしたがう1次元調和振動子の運動量作用素は-iDで与えられる。ここで、D=∂/∂x-(c/x)R、Ru(x)=u(-x)、またcは実数のパラメータである。原点x=0で特異、ということがこの作用素の特徴である。パラメータcがゼロのときにはD=∂/∂xとなり、これについてはSobolevの埋め込み定理やFriedrichs-Lax-Nirenbergの定理などが知られ、偏微分方程式の弱い解の'滑らかさ'についての知見が得られる。そこで、原点で特異になる上記のような作用素についても同様な定理が成立するのか、ということを以前に調べた。そして'滑らかさ'のみならず'原点における特異性'についての知見も期待通りに得られた。これを1/x^2やx^2という特異なポテンシャルをもつSchrodinger方程式の初期値問題へ応用して、そのexplicitな解を得た。この成果を研究発表欄にある論文や図書という形で発表した。また、日本数学会でも口頭発表を行った。さらに、作用素DについてのN次元版のSobolev型の埋め込み定理を証明した。以前ではNについての制限が付いたままであったが、これを撤廃した。そして特異な係数をもつ偏微分方程式の初期値問題へ応用してexplicitな解を求めたので、現在はこれを論文にまとめている。 2.正準交換関係以外の交換関係を仮定することにより、いろいろな多様体上の量子力学が提案されている。そしてこれらが正しく量子力学となりうるためには力学変数が自己共役作用素でなければならない。したがって自己共役性の証明から、どれが量子力学として妥当であるかを判定できる。現在はOhnuki-Kitakado FormalismによるS^2上の量子力学に登場する力学変数の自己共役性の証明を、不足指数の計算を通じて行っている。
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