今年度はCR幾何および共形幾何の双方からrenormalized volumeの研究を行った.CR幾何においては強擬凸領域Dを相対コンパクトな部分領域で近似し、その部分領域のDのベルグマン体積要素に関する体積の漸近挙動を解析した(部分領域がDに近づくときその体積は無限大に発散する).この展開には対数項が現れ、領域の大域的不変量になることが分かっていたが、今回はこの不変量がDの境界のセゲー核の対数項の積分と一致することを示した.この結果は独立に解析されていた二つの結果を統一するものであり、解析の難しい体積の挙動を、局所的に計算可能なセゲー核に帰着させるものである.またこの証明は柏原正樹による再生核の代数解析の新しい応用であり強擬凸領域の漸近解析に新しい技法を導入するものである. 共形幾何においてはrenormalized volumeのアノマリーに現れるQ-曲率の簡明な表示をあたえた(プリンストン大学Fefferman教授との共同研究).これまでQ-曲率は次元に関する解析接続を用いて定義されたものであったため、その幾何的な意味はつかみにくいものであった.我々は次元を固定し、共形多様体に付随するアンビエント空間を用いてQ-曲率の表示を与えた.この表示はCR幾何においても意味を持ちCR幾何におけるQ-曲率の類似物を定義する.とくに3次元CR多様体のセゲー核の対数項はこのQ-曲率であることが分かり、共形幾何のアノマリーとCR幾何のアノマリーを結びつけることができる.
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