本年度の研究では、矮新星爆発モデルとして広く受け入れられている「円盤不安定性モデル」において、未解決の問題である降着円盤の粘性について検討した。具体的な問題としては、「や座WZ型星」と呼ばれる星の爆発後の再増光現象について研究した。この型の星の場合、爆発後に、続けて小さい爆発が繰り返されるという珍しい現象が知られている。この現象をもっともきれいな形でしめしたのが、1997年に爆発した「かに座EG星」と呼ばれる星で、主爆発終了後、7日の間隔で6回にわたり小爆発を繰り返した。ところが、6回目の爆発終了後、突然静かになり、現在もそのままの暗い状態にある。 この現象を説明するため、爆発終了後、降着円盤の粘性が時間とともに減少するというモデルを検討した。ここで、降着円盤の粘性の起源として、磁気回転不安定性(Balbus-Hawley不安定性)によるMHD乱流粘性を考える。この場合、円盤の温度が低く水素ガスが中性になると、磁場が有限の電気伝導度のため散逸して、粘性が下がってしまうという可能性が考えられる。そこで、かに座EG星では主爆発後、円盤内で粘性による物質の移動と粘性の減衰という現象が同時進行し、両者の競争が起こる。粘性による物質移動が勝る場合、円盤内部で熱不安定が起こり、これが6回にわたる再増光と理解できる。6回目の爆発後、突然爆発が止まるのは、ほんのわずかのパラメータの違いで、粘性の減衰が物質移動に勝った結果であると考える。すると、円盤は一方的に温度が下がり、粘性の減衰も加速され、長い静穏状態に入る。この様子を単純なモデルにして数値シミュレーションした結果、かに座EG星の光度曲線をうまく再現できることが分かった。以上の研究は、ドイツのマックスプランク天体物理研究所のMeyer夫妻との共同研究としてなされた。
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