本年度の研究は、矮新星WZ Sgeで観測された複雑なスーパーハンプ光度曲線の新しい解析方法を提案したことである。矮新星の中でも特に有名なWZ Sgeが2001年夏に22年ぶりに爆発を起こし、詳細な観測がなされた。その中でも特記すべきは、スーパーハンプ光度曲線が極めて複雑であったことである。普通のSU UMa型のスーパーハンプの場合、一つの周期で記述される一こぶの単純な光度曲線であるが、2001年のWZ Sgeの場合、スーパーハンプの光度曲線の形が毎晩のように変わった。この星が他の星と違って極めて複雑なスーパーハンプ光度曲線を示すのは、星の軌道傾斜角が90度に近く、スーパーハンプ自身の光度変化と降着円盤の非軸対称的光度分布とが複雑に絡み合ったためである。 そこで、このもつれを解く新しい光度曲線の解析方法を提案した。この方法は、スーパーハンプと軌道周期のビート周期にわたる光度曲線において、同じスーパーハンプ位相のデータを集め、軌道公転周期の位相の関数として、観測データを並び替える。これは、物理的に同じ降着円盤の状態で異なる方角から眺めたものを拾い出すことにあたる。このようにして出来た新しい「軌道光度曲線」は、そのスーパーハンプ位相その非軸対称な降着円盤の空間的光度分布を表していると考える。そして、「軌道光度曲線」を逆問題として解き、空間的光度分布に戻してやる(トモグラフィー)。この方法ては、スーパーハンプの異なった位相での何枚もの降着円盤の空間的光度分布を再現するので、医学用語を借用してヘリカル・トモグラフィー(3次元断層写真)と呼ぶ。この原理を使えば、Patterson等の光度曲線の周期解析から得られたいろいろな周期のモードが、降着円盤の中を伝わる波のモードとして同定できる。
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