地球自転の永年的運動である歳差の理論に関して、国際天文学連合(IAU)の正式理論であるIAU1976歳差公式(Lieske et al.1976)を含む既存の研究について総括した。次に、VLBIによる最近20年の観測データに適合するようIAU1976歳差公式を修正することを試みたが、同公式が仮定する元期(2000年)での平均赤道座標系とIAU公式座標系(ICRF)との一致が実現していないことから、元期付近で大きな差異が生じるため、このアプローチがうまく働かないことを確認した。この不具合は章動理論(たとえばIAU1980章動理論)の不正確さに起因するものではなく、実際、昨年度に得られた最新の章動理論SF2001(Shirai & Fukushima2001)を用いても同様の結果が得られた。 この問題点を解決するために、williams(1994)が提唱した3-1-3-1回転行列による歳差表現を、任意の座標系に対して拡張し、基本となる4つの歳差角を定めた。このうち、黄道面を規定する2つの角度については、最新の月惑星暦DE405を用いて地球・月重心の日心軌道角運動量ベクトルを調和分解することにより、その永年項すなわち惑星歳差を時間の4次多項式として求めた(Harada and Fukushima 2003)。赤道面を規定する残りの2つの角度について、その永年的運動すなわち日月歳差を、SF2001章動理論および上記の惑星歳差公式と組み合わせた結果、上記のVLBI観測データを忠実に再現するように、最適な次数の時間の多項式として求めた。両者の歳差公式を併せることにより、IAU1976歳差公式の次の世代の公式として新しい歳差公式を決定した(Fukushima 2003)。
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