素粒子の標準模型において小林-益川行列の決定は重要であり、現在も多くの理論的計算、精密測定実験が行われている。クォーク3世代の場合、小林-益川行列によってCPの破れを引き起こすことが可能であり。最近の実験では、直接的なCP非保存を示す量がゼロでないことが報告されている。観測されたCP非保存が標準模型で説明されるかの決定にはK中間子の弱電磁行列要素の非摂動的な計算が必要である。 本研究では、格子QCDのモンテカルロ法を用いて、K中間子のCP非保存の関係する弱電磁行列要素を計算した。このような計算ではQCDの持つカイラル対称性が重要になるので、それを保った計算をすることが望ましいが、今までは格子フェルミオンの定式化の困難のために不可能だった。最近提唱されたドメインウォール・フェルミオンを用いることでこの困難を回避した。また、格子上でK中間子の2体崩壊を計算することも困難であったが、カイラル摂動論を使うことでK->パイの行列要素に帰着させ、その計算を可能にした。 本研究で得られた成果は以下の通りである。 1.弱電磁行列要素の計算に必要な演算子の繰り込み定数をドメイン・ウォールQCDの場合にシュレディンガー汎関数法で非摂動的に計算し、その結果を摂動論の場合と比較した。その差は最大で10%程度であった。 2.ドメイン・ウォールQCDを使った場合のカイラル対称性の保存の様子をモンテカルロ法による数値計算によって調べた。 3.直接的なCP非保存に関する行列要素をドメイン・ウォールQCDのクエンチ近似によるモンテカルロ法によって計算した。まだ、解析の途中であるが、他の計算法により実験値に近い値を得ている。
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