素粒子の標準模型において小林・益川行列の決定は重要であり、現在も多くの理論的計算、精密測定実験が行われている。クォーク3世代の場合、小林・益川行列によってCPの破れを引き起こすことが可能であり。最近の実験では、直接的なCP非保存を示す量がゼロでないことが報告されている。観測されたCP非保存が標準模型で説明されるかの決定にはK中間子の弱電磁行列要素の非摂動的な計算が必要である。 本研究では、格子QCDのモンテカルロ法を用いて、K中間子のCP非保存の関係する弱電磁行列要素を計算した。このような計算ではQCDの持つカイラル対称性が重要になるので、それを保った計算をすることが望ましいが、今までは格子フェルミオンの定式化の困難のために不可能だった。最近提唱されたドメインウォール・フェルミオンを用いることでこの困難を回避した。また、格子上でK中間子の2体崩壊を計算することも困難であったが、カイラル摂動論を使うことでK->パイの行列要素に帰着させ、その計算を可能にした。 本研究で得られた成果は以下の通りである。 1.間接的なCPの破れに関係し、小林・益川行列の決定にも重要になる物理量であるK中間子のBパラメタをクエンチ近似で計算した。格子間隔aに起因する系統誤差を小さくすることができ、また、有限サイズ効果やカイラルの破れなどの系統誤差もきちんと評価し、非常に高精度の結果が得られた。 2.Bパラメタの精密な値を得るのに必要な繰り込み定数を摂動展開で計算した。また、その非摂動的計算を可能にする方法を定式化した。 3.メイン・ウォールQCDを使った場合のカイラル対称性の保存の様子をモンテカルロ法による数値計算および理論的な解析によって考察し、カイラル対称性に関する理解を深めた。 4.直接的なCP非保存に関する行列要素をドメイン・ウォールQCDのクエンチ近似によるモンテカルロ法によって計算した。CP保存の行列要素は問題ないが、非保存の行列要素が小さすぎるなどの、今回のカイラル摂動論を使った方法の限界を明らかにした。
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