今年度は、RHIC-SPINの実験で測定される予定のスピン観測量に対する断面積の量子色力学に基づいた導出と評価をおこなった。まずは、偏極陽子と無偏極陽子の衝突において終状態に大横運動量をもったπ中間子のみを観測するシングルスピンアシンメトリーA_Nの評価である。A_Nは入射偏極量子が散乱平面に垂直方向に偏極しているときにゼロでない値をとり得るが、パートン描像では記述できないハドロン中のクォーク・グルーオン相関を反映する「ツイスト3」観測量として注目されている。QCDに基づいた解析をすると(i)入射偏極陽子からツイスト3分布関数が寄与するもの、(ii)標的の無偏極陽子からツイスト3分布関数が寄与するもの、(iii)生成されるパイオンからツイスト3破砕関数が寄与するものの3種の寄与に分けられる。(i)は既に以前の研究で前方にパイオンが生成される際に大きな寄与をすることが知られていたが、今回は、後方で大きな寄与をする可能性のある(ii)について調べた。この寄与は入射偏極陽子中の「横偏極度分布」をプローブするため興味深いが、結果はパートンレベルのハード断面積があらゆる運動学的領域で小さいため(i)の寄与に比べ無視される程度であることを示した。この結果は2編の論文として発表した。更に、(iii)の寄与についても研究を継続し(i)と同程度ある結果が得られた。(投稿準備中) RHIC-SPINでは、無偏極の陽子どうしの衝突から偏極ハイペロンのみを押さえる実験も予定されている。このハイペロンの偏極もツイスト3観測量でありQCD解析を推進したが、以前のデータの傾向を説明できる結果が得られ今後の実験との比較が待たれる。国際会議での発表をし投稿準備中である。 また、クォーク模型によりハドロン・ハドロン散乱を記述する際、クォークの閉じ込めを如何に表現するかが問題であるが、それに関する以前の成果をまとめるレヴューを発表した。
|