今年度は、次のテーマについて研究を行った。 Vacuum String Field Theoryにおける古典解の解析: ボソン的開弦理論には、摂動論的真空とは別に、より安定な非摂動論的真空が存在し、そこでは開弦の自由度が全く消失しているということがSenによって予想され、両真空間のエネルギー差については、摂動論的真空を起点とする開弦の場の理論においてlevel truncationなる近似を用いることで非常に良い精度で期待通りになっていることが示された。しかし、非摂動論的真空において開弦の自由度が全く消失していることを示すには、この近似法では難しいため、逆に、非摂動論的真空を起点とすると期待される場の理論としてVacuum String Field Theory (VSFT)がMITのグループにより提案された。このVSFTは開弦の物理的自由度を持たないことは自明であるが、これがタキオンのある不安定な摂動論的真空と結び付いている意味のある理論であるかどうかは不明であった。 研究代表者と川野輝彦氏(東京大学大学院理学研究科助手)は、(1)摂動論的真空を表すと考えられるVSFTの古典解を構成し、更に、(2)この古典解まわりの揺らぎのスペクトラムを解析して、タキオンや無質量ベクトルモードの存在を示し、(3)この古典解のエネルギー密度とD25-braneの張力の関係を解析した。 更に、研究代表者と森山翔文氏(理学研究科大学院生)は、上記の解析に現れるタキオン質量や古典解のエネルギー密度等のVSFTにおける物理量が、『単純にはツイスト対称性のために消えてしまうが、正則化によって実は零とは異なる値をもつことが出来る量』であることを発見し、これをツイスト・アノマリーと名付けた。また、研究代表者と森山翔文氏および寺口俊介氏(理学研究科大学院生)は、このツイスト・アノマリーとしての物理量を解析的に求める方法を与えた。
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