研究概要 |
本研究計画は、摂動論的量子色力学を基礎に、演算子積展開(OPE)やくりこみ群の方法、また同時にDGLAP型の発展方程式で記述されるQCDパートン描像を用いて、高エネルギーでのスピン物理の新たな展開を目指すものである。特に、核子および光子のスピン構造に焦点を当てて、これらの構造を明らかにするのを目標とする。当該研究計画の初年度である平成12年度は、偏極電子・陽電子散乱での光子のスピン依存構造関数や偏極仮想光子中のクォークとグルーオンのスピン依存分布関数の解析を遂行した。その際、next-to-leadingオーダーではパートン分布関数がFactorization(因子化)のscheme(処方)に依存するので、各schemeの特徴を明確にした。このグルーオンのスピン分布関数の解析は、今後行われるDESYでのHERMESや偏極HERA、またBNLでのRHICスピン実験などで実験データを予測する上で大いに意義があるものと考えられる。具体的には、横浜国立大学の佐々木賢教授との共同研究において、偏極仮想光子中のクォークおよびグルーオンのスピン依存パートン分布関数をQCDのnext-to-leadingオーダーで計算し、またその因子化の処方依存性等を調べ、論文として発表した(Phys.Lett.Bに掲載)。口頭では、4月にドイツで開催されたDESY/Zeuthenの会議において発表した(Nucl.Phys.B.Suppl.参照)。また,さらに8月にイギリスで開かれたPHOTON2000で講演し(AIP Proceedingsに掲載予定)、国内では10月に大阪大学核物理センターで開かれた国際会議スピン2000でも報告した。計画の実施においては、国内各地とりわけ、東大・広大・横浜国大などの関連する分野の研究者との討論・研究交流が有益・不可欠であった。予算執行としては、国内のQCDの研究者との研究連絡や情報交換のための旅費・謝金の他、論文作成と数式処理のために必要なノート型のコンピュータを購入した。
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