本研究計画は、摂動論的量子色力学を基礎として、演算子積展開(OPE)やくりこみ群的手法、さらに同時にDGLAP型の発展方程式で記述されるQCDパートン描像を用いて、高エネルギーでのスピン物理の新たな展開を目指すものである。特に、核子および光子のスピン構造に焦点を当てて、これらの構造を明らかにするのを目標とする。当該研究計画の最終年度である平成14年度は、偏極電子・陽電子散乱での光子のスピン依存構造関数や偏極仮想光子中のクォークとグルーオンのスピン依存分布関数の解析を遂行した。特に、昨年度に初めて解析を行った、仮想光子に登場するg_2構造関数にツイスト3の効果が現れることを、まずQEDのBoxダイアグラムで示し、次に純粋にQEDの相互作用での演算子展開の分析でこれを明らかにした。これに基に、QCDの効果を取り入れた場合のg_2構造関数の3次のモーメントをleading-logで厳密に求めた。またcolorの数が大きい極限でのflavor-nonsinglet成分のx依存性を示した(Phys.Rev.Dに発表)。また一方、仮想光子に対する8つの構造関数の正定値性から、それらが満たす不等式を導き、論文として発表した(Phys.Rev.Dに掲載)。さらに、仮想光子の標的質量依存性をOPEの枠内での0(4)展開によるNachtmannモーメントより求め、その効果の大きさの評価の研究を開始した。口頭では、9月にドイツのクロスター・バンツで開催されたRADCOR02の会議において発表した(Nucl.Phys.B.Proc.Suppl.に掲載予定)国内では9月に東京で開催の物理学会において共同研究者より報告した。計画の実施においては、国内各地とりわけ、東大・広大・横浜国大などの関連する分野の研究者との討論・研究交流が有益・不可欠であった。予算執行としては、国内の研究者との研究連絡や国際学会での発表のための旅費のほか、数式処理のための計算機の周辺機器を購入した。
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