研究概要 |
本年度の主な研究成果は、カイラル・クォーク・ソリトン模型をフレーバー2から3に拡張し、これに基づき核子中のu-クォークやd-クォークだけでなく、奇妙さの量子数を持つs-クォークの分布関数の理論的予言も可能になったことである。SU(3)カイラル・クォーク・ソリトン模型の基本的な作用はSU(2)模型の自然な一般化として得られるが、ここで注意しなければならないのはs-クォークとu, d-クォークの質量差に起因するSU(3)対称性の破れの効果である。我々はこの質量差を一次の摂動論に基づき注意深く評価した。この質量差は模型の唯一の自由パラメターであり、実際には全ての分布関数の計算において100MeVに固定された。この研究において特に注意を払ったのはd^^-(x)-d^^-(x), d^^-(x)/u^^-(x), Δu^^-(x)-Δd^^-(x)のような観測量によって代表される"海"クォーク分布のフレーバー非対称性と、s(x)-s^^-(x), s(x)/s^^-(x), Δs(x)-Δs^^-(x)のような観測量によって代表されるストレンジ・クォーク分布の粒子・反粒子の非対称である。まず非偏極(スピンの方向について平均した)"海"クォーク分布関数に対する模型の予言は、d^^-(x)-u^^-(x)に対するNMC実験データや、d^^-(x)/u^^-(x)に対するE866実験データ、s(x)/s^^-(x)に対するCCFRグループやBaroneらの現象論的フィットと概ねコンシステントであることが示された。模型はまた、スピンに依存する"海"クォーク分布に対しても、Δs(x)≪Δs^^-(x)【less than or equal】0, Δd^^-(x)<0<u^^-(x)等の非常に興味深い予言を与えることが示された。ただしスピンに依存する"海"クォーク分布は実験的には未だよくわかっておらず理論の予言の検証は近い将来に計画されている準包括深部非弾性散乱実験の結果を待たねばならない。
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