研究概要 |
近年,日本を含む世界各国で開発されつつある干渉計重力波検出器の目的は,電磁波の代わりに重力波を使った天文学,すなわち重力波天文学の確立である。そのためには,検出される重力波から,その源の物理状態が正確に再現されなければならない。 本研究では,重力波源として,巨大ブラックホールとコンパクト星の連星系に注目し,ブラックホール摂動論を使って重力波放出の反作用も含めたコンパクト星の軌道進化の計算法を定式化することを目標にした。このアプローチでは,コンパクト星を点粒子近似するため,重力波の反・作用力に(物理的でない)発散が生じる。そこでこれを正則化する必要がある。 昨年度までに,この正則化の方法について実際的に有効な方法を開発するし,重力特有のゲージ問題の解決に向けて,まず,球対称ブラックホールの場合に,調和ゲージで直接解く方法とRegge-Wheelerゲージで解く方法と二つを提案し,後者の方法でポストニュートン展開の低次の項に関して,具体的に正則化された力を求めた。 しかし,この方法は,円軌道のように特殊な軌道には有効であるが,それ以外の一般軌道に関しては,各軌道ごとに数値計算を精度よく実行する必要が生じ,計算コストが非常に高くなる。これを解消するために,任意の軌道に関して正則化が可能な解析的方法を開発した。これにはポストニュートン展開を必要とするが,最大の利点は,それが解析的であるために,どれほど高い次数が必要であっても,それが有限である限り,一度計算してしまえば,それで済む点である。 現在,どの次数までの展開が必要であるか,いくつかの軌道に関して,簡単のためにスカラー粒子を考えてテスト計算を実行しており,近い将来明確な答えが得られるはずである。
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