研究概要 |
量子色力学に基づくハドロン構造の理解は原子核物理における重要な課題の一つである。核子共鳴の電磁形状因子の研究はこれに対する情報を提供する。本研究の目的は核子共鳴領域における電子線中間子発生反応の解析からΔ_<33>及びN^*共鳴の電磁形状因子を決定することにある。本研究では、ユニタリ変換の方法を用いて中間子交換模型による電子線中間子発生反応を記述する有効ハミルトニアンを導き、共鳴過程及び非共鳴過程を統一的に扱う反応理論を構築した。 Δ_<33>励起領域における断面積の予言値は、その後Jlab,Mainz,MIT-Batesから発表された偏極を含む詳細な実験結果を非常によく説明した。これらの解析から次の事柄が明らかにされた。 1.NΔ磁気双極子遷移形状因子 長年問題であった現象論的に得られた形状因子とクォーク模型の値との差異、および遷移形状因子の空間的広がりの問題は非共鳴過程により共鳴粒子形状因子が繰り込を受けるためであることが示された。 2.NΔ電気的四重極子遷移形状因子 核子、Δ_<33>の変形を示唆する電気的4重極子形状因子が存在することが示された。またこの形状因子の値は高運動量移行領域では摂動論的QCDの予言値とは大きく異なり、低運動量移行領域ではパイ中間子電流の寄与が顕著になることが示された。これらの結果が動機となり現在新たな実験計画が提案されている。 一方、2パイ中間子発生閾値以上のエネルギー領域に存在するS_<11>共鳴に関しては、ユニタリ変換の方法による有効ハミルトニアンの構築、Wick-Rotationを用いた3粒子系散乱問題の数値解法の開発を行い、成果が得られつつある。本研究は共鳴粒子の構造を理解する上で共鳴、非共鳴過程を含んだ反応理論による理論研究が非常に重要である事を示した。
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