研究概要 |
本報告書は平成12年度から平成15年度までの4年間にわたり交付をうけた科学研究補助金C(2)に関する研究成果をまとめたものである。本研究では高エネルギー加速器機構の電子・陽電子衝突型加速器(KEKB)にて収集したデータを持いて、タウ粒子に関する次のような研究を進めてきた。 1)τ->ππν崩壊過程におけるCP非保存現象の探索、2)τ粒子の電気双極子モーメントの探索、3)レプトン・フレーバーの保存則を破る崩壊モードの探索、4)τ->ππν崩壊における2πスペクトル関数の測定 現在、KEKBは1.0x10**34/cm^2/secという世界でもっとも高いビーム強度を誇っており、これまでに収集されたタウ・レプトン対は1.5x10^8個にのぼる。これはこれまでのデータより2桁多い数である。上記に挙げた研究はこのような多量のタウ粒子にもとづいた研究成果である。 1)の研究はタウ粒子崩壊過程におけるCP非保存現象の探索であり、結果は論文(1)にまとめられている。 ここでは1%の精度でCPが保存していることを確認した。2)の研究はタウ粒子の電気双極子モーメント(EDM)を探索した研究である。結果は論文(4)および(5)に纏められている。この研究では従来のEDMの上限値を一桁以上更新した。 3)はレプトン・フレーバーの保存則を破る稀崩壊モードの探索の実験である。レプトン・フレーバーの破れは近年、超対称理論やニュートリノの質量を説明するシーソーメカニズム等による理論的考察から、比較的大きな破れが存在する可能性が議論されているホットな話題である。実験ではこれまでに、80-130/fbのデータを用いて、τ->μγ、μη、μμμ、μee,等の崩壊モードを探索し、90%の信頼性で崩壊率が(1-2)x10^-7以下という結果を得ている。この値は従来の上限値を約一桁更新しており、さまざまな標準理論;超対称性理論や重い右巻きのニュートリノを含めた理論により強い制限を与える結果となっている。論文(2)および(3)、(7)、(8)、(9)がレプトン・フレーバーの保存をやぶるモードの探索の結果である。 4)の課題である、2π系のスペクトラル関数は、ミュー粒子の異常磁気能率(g-2)の理論予測の精度を向上させる上での重要な測定量として近年その精密測定が非常に注目されている測定である。本研究では、ここ3年の渡ってこのタウ粒子の2π崩壊過程における2π系の質量分布の精密測定を課題とした研究を進めてきた。その精密測定のためにはBelle測定器の詳しい特性を理解することが非常に重要であり、中性π中間子の検出効率、トリガー効率、ハックグラウンドの評価とその評価の信頼性等に関する詳しい研究を進めてきた。結果は論文(6)に発表済みである。今後、結果の詳細を本論文にまとめ学術雑誌に投稿する予定にしている。
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