本研究は、高速回転している原子核において見られる集団運動的状態に対して、変形の自由度および回転軸の傾きを含んだ回転の自由度を集団座標の方法により取り扱うことによって微視的理解を進めるものである。 本年度の研究の最も大きな目標はより現代的な立場から、四重極変形自由度に対する集団座標の量子力学的取り扱いをすることであった。このためにはポテンシャルエネルギー面の計算と質量テンソルの計算が本質的であるが、高速回転状態で平均場近似を越えて乱雑位相近似(RPA)の相関まで採り入れた計算を行なうために、RPA相関エネルギーの新しい計算法を開発した。これにより従来より格段に高速にポテンシャルエネルギーを求めることができるようになり、非常に大きな成果といえる。これに対し、質量テンソルについてはこれを求める模型の精度をチェックするために、高スピンアイソマーの崩壊や超変形回転バンドの崩壊現象など、以前から行なっているトンネル現象を用いた漸近的アプローチによる簡単な計算をより広い原子核や励起状態に対して応用を行なった。これにより、現在用いている質量テンソルが実験データをうまく説明するには少し小さい場合が多いことがわかり、これを改良するために質量テンソルを求める模型をフェルミ面近傍の核子軌道の微視的性質が採り入れられるように拡張することを検討している。このように、ポテンシャルおよび質量テンソルのより良い計算法の検討のために集団運動を実際に解く部分については予定より遅れているが、現在、標準的な5次元調和振動子基底を用いて集団ハミルトニアンを対角化する方法と、内部変形自由度に対する微分方程式直接解く方法の両面から、より精度良く高速に解を求められる方法を検討中である。
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